年齢を重ねると老化の影響により、「眼鏡をどこに置いたか」を忘れたり、「新しいものの知識を得る」のが困難になったりと脳の働きが鈍くなるものです。アイルランドのコーク大学の研究チームが発表した研究結果によると「若いマウスから老齢のマウスに糞を移植することで、老齢のマウスの脳機能が若返った」とのことです。
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人間の腸内に存在する腸内細菌(腸内フローラ)は「その人の状態を示すことにつながる」と言われることからも、私たちの日々の精神状態や健康状態に大きな影響を与えています。そして、この腸内細菌は年齢とともに変化していくことも示されてきました。
コーク大学の研究チームは若い腸内細菌が高齢者の腸内にどのような影響を与えるか調査することを目的に「人間の若年層の年齢に該当する生後3~4カ月のマウスの糞便を採取し、生後20カ月の老齢のマウスに移植する」実験を行いました。この老齢のマウスには週2回、8週間に渡って、糞便移植が繰り返されたようです。なお、比較用として「老齢マウスの糞便を老齢マウスに移植」「若いマウスの糞便を若いマウスに移植」する実験も合わせて行われいることが研究で示されています。
この実験の結果、「若いマウスの糞便を移植された」老齢のマウスは腸内細菌の状態が移植元のマウスのものに似てきたとのこと。例えば、一般的な腸内細菌の1つとして知られるエンテロコッカスが老齢マウスにもかかわらず、若いマウスと同等程度の量が存在することが明らかになりました。
そして、糞便移植の影響は腸内細菌の状態が変わるだけでなく、脳にも影響を与えていることが確認されています。研究チームがこの老齢マウスの脳を調べると脳の海馬の状態も移植元マウスのものに「物理的」かつ「化学的」にも似ていることが確認されました。ちなみに老齢のマウス同士で糞便移植したものには「そのような効果」がないことも確認されているとのことです。
しかし、若いマウスの糞便を移植された老齢のマウスが必ずしも「腸内環境の若年齢化」「脳機能の向上」があるわけではなく、ほとんど効果がないマウスも確認されているようです。アメリカのワシントン州のシステムバイオロジー研究所の腸内細菌の研究を行っているショーン・ギボンズ氏は「マウスへの糞便移植の分野はまだ混迷を極めている状態です」と語っており、今回のように糞便移植が有益な結果が出たとする研究がある一方で「効果がなかったり、逆に認知機能の低下を引き起こしたりする例」も存在しているとしています。
このように「もっと正確な情報を集める必要がある」と語る専門家も多いことから、実際に人間で臨床試験が行われるのはもっと後のことになると考えられます。