2021年8月10日にアメリカのオハイオ州の農場で働いていた3人の兄弟がポンプを修理するため、肥溜めに入り作業していたところ、肥溜めの中で有毒ガスを吸った影響で意識を失うという事故が発生しました。その後、3人の男性は病院に運ばれましたが、意識は回復せず死亡したとのことです。
- Three Brothers on an Ohio Farm Died After Passing Out in a Manure Pit
- 3 men die in manure pit: Here's why it's a 'death trap. | Live Science
動物の排泄物を肥料として使用するため保管される肥溜めはその特性上、有毒ガスが発生する可能性が指摘されています。国家農業安全データベース(NASD)によると、糞尿を分解した際には硫化水素、メタン、アンモニア、二酸化炭素が発生することが確認されており、これらのガスが高濃度になると、人間を含む動物にも大きな危害を加えるとのことです。
中でも最も有毒なものとされているのが硫化水素です。硫化水素は低濃度では「卵の腐ったような臭い」を発し、目や喉に刺激を与えるだけの効果しかありません。しかし、中濃度になると「頭痛」「吐き気」「めまい」の症状が発症し、高濃度では鼻の神経細胞が麻痺することで臭いが感じられなくなり、その後は呼吸器系が麻痺することで死亡する例も報告されているのです。
今回の事故の例では肥溜めのポンプを修理していたことから、当初はポンプが停止しており、肥料が拡販されていない状態であったと考えられます。このため、当初は非常に低濃度の硫化水素が放出されており、人体に影響が出ないレベルであったと思われます。しかし、修理完了後にポンプが稼働し、肥料の攪拌を始めたことで排出される硫化水素の濃度が高濃度に推移したものの、作業者の嗅覚は麻痺している状態であったため、そのまま、有毒ガスを吸い込み気絶したものと推測されています。
NASDでは肥溜めに入って何らかの作業をする際には空気ボンベを用いた呼吸器具を装着して作業をするなど必要な安全対策を講じる必要があるとのことです。また同様の事故が起きている現場に救助に行く人たちも同様の装備をしていることが必須となると説明しています。このような事故事例も多いことから、NASDのWebサイトには注意喚起として「肥溜めは『死と隣り合わせの罠である』と考えてください」と記載しています。